今回、2018年6月8日に発売された HP Spectre 15 x360 をお借りしたので、お絵かき視点でのレビューを行いたいと思います。その前にどのような性能を持った製品なのか、お絵かきには性能的に適したものかを確認していきましょう。
HP Spectre 15 x360 の外観
デザインは、洗練された造形美にブラック × ゴールドという配色で、美しさと高級感のある製品に仕上がっています。特に、ブラック × ゴールドという配色は失敗すると不良チックな組み合わせに見えることも多いですが、そのように見えない色と配置のセンスは流石という感じがしました。
※ 公式表記のカラーはアッシュブラックとなります
サイズは 15.6 inch Laptop PC でありながら、幅 359㎜、奥行き 249㎜、厚さ 19㎜(最薄部)〜 21㎜(最厚部)という 14 inch Laptop PC とほぼ変わらないサイズなので、とてもコンパクトに感じます。
重量は 2.13kg ですので片手で持つには少々重く感じます。
液晶が開く最大角度は 360° となり、180° くらいでタブレットモードへ変更になりキーボードが反応しなくなります。
液晶のベゼル(縁)は左右は細く上下が太い感じです。タッチパネルが搭載され、ペンが同梱している HP Spectre 15 x360 では、一般的な Laptop PC と違い、液晶の手前に液晶を保護するガラスがあります。よく液晶モニターを押した時に、その押した部分が滲んだようになりますが、この製品では液晶をタッチやペンで描いても、かなり強く押さない限り滲みは発生しませんでした。
太い感じです。タッチパネルとペンを搭載してるこのノートでは、普通のノートと違って液晶の手前に液晶を保護するガラスがありますので、よく液晶モニターを押すとその部分が滲んだようになりますが、液晶をタッチやペンで書いても、かなり強く押さない限り滲みは発生しません。
側面右側に、拡張ディスプレイや TV への接続時に便利な HDMI 2.0 端子と Type – C 端子 × 2 があり、Type – C 端子は Thunderbolt™ 3 & 電源オフ USB チャージ 対応しています。
実験で Type – C 端子に Wacom Cintiq Pro 16 を Wacom Link(ワコムリンク)を使わず 直接 Type – C に繋げば 4K 出力されるので、大きなデスクトップ PC を置きたくない人には、良い選択ではないでしょうか。
側面左側には USB 3.1 Gen 1 × 1と SD カードスロット、3.5㎜ スピーカー端子があります。USB 3.1 端子は、Type – C 端子に対応したデバイスも少ないので、2つくらいあっても良かったかなと思います。
キーボードの上の穴はスピーカーになっていますが、スピーカーは表側キーボードの上と裏側手前の左右にあり、合計で 4つのスピーカーが搭載されています。
内蔵サウンド用のチップセットは Realtek 製のものが搭載してあり、Hi – Res(ハイレゾ)は 196/24bit までは WASAPI ダイレクトに対応していました。
スピーカーは、B & O(Bang & Olufsen)が共同開発で関わっているようです。実際に試聴してみたところ、Laptop PC のスピーカーとしてはクリアな音でバランスよくなっているように聴こえました。ただし、背面のスピーカーは、置く箇所の素材によって音の籠りや残響音の違いが出てしまうこともあったので、机の上で作業しながら音楽を聴くのが一番音がよい状態だと思いました。
ヘッドフォンでの音はどんな感じかなというのも試聴してみました。
3.5㎜ 端子からの音の視聴では、音楽再生ソフトは Jriver 27、視聴ヘッドフォンは、beyerdynamic DT 1770 PRO です。
サウンドステージは横幅が普通なので、中央でごちゃごちゃする感じはなく、上下の空間もそこまで広くないです。
音は全体的に少し柔らかい感じで、どこかの帯域が強調されてるような鳴り方をしません。余韻は残らず、すっと抜け響きも特に感じないので、女性ヴォーカルを聴いても艶は感じません。
解像度は一音一音はっきり聴こえるところまでいかないことで、逆にそれが耳障りのよいサウンドになっているように感じました。
高域:優しくさっぱりした高域の音なので耳が痛くなることがありません。
中域:柔らかい音ですっきりした感じ、躍動感はそれほどなく淡々となっている感じなので、中域が多いオーケストラや音数が多い曲だとだと物足りなく感じます。
低域:十分な低域は出ているものの、若干ぼやけているので柔らかく聴こえます。そのため全体の音がボヤっと聴こえることも。バスドラムのキックが柔らかく聴こえました。
イヤフォンやヘッドフォンでは味があるものの方が楽しく聴けるかなと思います。イヤフォンでは、時たまサーっというノイズが発生しました。
スペック
次はスペックを見ていきましょう。
CPU
CPU は Intel® Core™ i7 – 8705G プロセッサー(動作周波数:3.10 GHz、ブースト時:4.10 GHz)を使っていますので、Laptop としては高性能な能力ですね。お絵かきをするのにもテクスチャーの多い重いブラシを使わなければ十分な性能を持っています。
ZBrush のような CPU でレンタリングやビューボード描写をするアプリケーションなら、快適に作業ができます。
RAM(メモリ)
DDR4 – 2400 – 16GB(8GB × 2:SAMSUNG 製)を搭載してます。DDR4 の 2400 を搭載しているので、作業時にレイヤーやファイルを使っているときの速度の遅延やラグの発生率が少なくなり、イラスト作業だと快適に作業ができます。
ただし、RAM(メモリ)が 16GB ですので、Adobe After Effects のような動画編集アプリケーションだと、近年の動画の大容量化で RAM(メモリ)消費も多くなり、作業時だとエフェクト等を大量に使うと 16GB では少々物足りなく感じるかもしれません。
SSD(ストレージ)
SSD は、1TB(PCIe NVMe M.2)が搭載されていますので起動も早く、処理速度も問題ありません。特にシーケンシャルが速いので、容量の多い動画編集では効率が上がります。
逆にイラストになるとそこまで容量を使わないので、実際のシーケンシャルが 500 以上のものからは 1200 であっても 2300 であってもそこまで変わりはないです。
キーボード
お絵かき用途ではあまり使う機会がありませんでしたが、軽く触った感じは、打鍵の打ち心地で悪い印象はありませんでした。
GPU(ビデオカード)
グラフィックでは、内蔵グラフィックスである Intel HD Graphics 630 と Radeon™ RX Vega M GL が使われています。低負荷の場合は Intel HD Graphics 630、負荷が大きいと Radeon™ RX Vega M GL になるように設定されていました。負荷による GPU の変更は Radeon 設定から行うことができます。
GPU の負荷がかかるとファンの音が少し大きく感じます。静かな空間だと少々うるさく感じかもしれません。音楽をかけながらの作業時にはそこまでうるさく感じませんでした。
ディスプレイ
HP Spectre 15 x360 は、15.6 inch のタッチパネル搭載 4K(3,840 × 2,160)IPS ディスプレイを備えた製品です。Wacom でいうと Cintiq Pro 16 と同じ大きさと解像度になります。横並びのサイズを見ると似たようなサイズ感ですね。
早速、ディスプレイの能力を調べましょう。IPS ディスプレイなので視野角は広く一般使用では角度による色見変化は起こりにくくなっています。
表面加工は、光沢ディスプレイの割に光の反射は少なく感じますが、光沢タイプなので映り込みはあります。色味は明るめで白が強く、色鮮やかさをあまり感じませんでした。色見を暖色寒色でいうなら寒色系の色です。
ビデオカードは ATI Radeon™ RX Vega M GL なので、ATI 特有の鮮やかさが出るかなとも思ったんですが、映像出力には ATI を介してるわけではなさそうですね。
ということで、見ただけの意見ではなく実際に i1Display Pro で計測と補正をおこなってみました。
Adobe カバー率
海外では、Adobe RGB のカバー率が 72% という情報があったので実際に計測したところ、カバー率は 71.7%、Adobe RGB 比 74.2% という計測結果になりました。
多彩な色を表現できる Adobe RGB を重視するデザイナーやフォトグラファー作業では、確認用途では使いずらい感じがします。
sRGB カバー率
sRGB カバー率 92.7%、sRGB 比 100.1% という計測結果です。
sRGB カバー率が 92.7% なので、ディスプレイの色見の特性さえ分かっていれば、CMYK 入稿の印刷物系の方が使えるという感じです。
計測の結果、予想よりもディスプレイ能力が低い感じでした。色見は、緑青系に弱いディスプレイというのが分かり寒色系より暖色系ということが確認できます。
実際にキャリブレーション補正をしてみると、補正前の寒色系から暖色系の色見に変化しました。ただ、お借りした時の状態が工場出荷時の色見だったのかというのがわかりません。
フリッカー現象の確認
カメラ撮影時に横線の走査線が動いて見える現象が起こっていたので、コントラストをいじってみると、少しではあるもののフリッカー現象が発生していることを確認しました。
フリッカー現象が発生するということは、目が疲れやすくなる原因となります。この対策としてコントラストを上げると、フリッカー現象が減るので、目への負担が軽減されます。
お絵かき
本題のお絵かき用途での使用です。
角度は自由に変更できるので申し分ないです。グラつきも写真のような感じで使用すると特に感じませんでした。
下に滑り止めのようなマットを引かないで、平行に近い角度にすると描いた瞬間に開ききってしまうので、角度には十分に気を付けた方がいいと思います。
・ディスプレイ
すでに触れましたが、色見は薄い感じなので色調整が必要になります。
・視差
ペン位置と液晶を保護するガラスの隙間から発生する視差は、ほとんど感じないくらいでした。
ディスプレイ端のズレもなく、視差の少ない iPad Pro(12.9 inch)や Surface Pro などの製品と比較しても、遜色ないくらいに紙にペンで直接書いてるかのような感覚で書けます。
ペンに関しては、借りる前に筆圧感度が 1,024段階という話を聞いていたので、一世代前のペン性能だなと思っていましたが、実際に使用すると Surface Pro 4 を思い出す筆圧の硬さでした。
ペン自体は Microsoft Pen プロトコル(N – Trig)ということのなので、ほぼ Surface Pro 4 と変わらない描き味です。
ON 荷重も Surface Pro 4 のペンと同じくらいの感知性能だと思います。そのため、筆者のような筆圧の弱い方だと線が途切れやすいです。そして濃淡や強弱の出方の階調が 1,024段階という低さもあり、急に太くなったり細くなったりしやすく、現在の Wacom 製に慣れてしまってる方には、慣れるまでの調整が難しい感じでした。
後は、筆を強めに書かないといけなくなってしまうので、硬いところに描いていることもあり長時間の作業だと腱鞘炎等を心配する方も多いと思いますが、この Spectre アクティブペン 2 は先が少し沈み込むタイプなので、手の負荷が軽減されるようになっています。
ただしペンのセンサーが、沈み込んでから反応する仕組みになっているので、慣れるまで使いずらく感じるかもしれません。この沈み込む感覚に慣れると Surface Pro 4 のペンよりは描きやすくはありました。
絵作業
使ったアプリケーションは CLIP STUDIO PAINT になります。
他の検証に時間をかけすぎてしまい、じっくりお絵かきをしている時間が無くなってしまったので、簡単な感じの絵を描いてみました。
Microsoft Pen プロトコル(N – Trig)ということもあり、ゆっくり書くとブレが発生しやすいですが、補正値 6 くらいでブレにくくなります。慣れてしまえばブレを抑えるスピードで作業もできるようになります。ブレを他の製品で比較すると Surface Pro 4 のペンよりは若干少ない印象かなと思います。
まとめ
今回は高スペックな Laptop PCということもあり、お絵かき以外も軽く検証してみましたが、ゲームや AE、3D モデリング、Zbrush のような作業だと PC の性能を十分に発揮して作業の効率性も上がりやすいと思いました。
逆に、お絵かきやフォトデザイナー等になると、スペック的には十分仕事の現場でも使える性能なのにディスプレイとペンの弱さが出てしまい、あと少し頑張って欲しかったという感じでした。
2018年7月31日:ディスプレイのベゼル(縁)に関する記載部分を加筆修正しました。
関連リンク
- ・HP Spectre 15 x360 製品詳細 – ノートパソコン|日本 HP:http://jp.ext.hp.com/notebooks/personal/spectre_15_x360/
- ・ノートパソコン、デスクトップ、プリンターなど|日本 HP:https://www8.hp.com/jp/ja/home.html
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